三谷幸喜の文楽です。
大阪で何やらもめているあの「文楽」。人形がお芝居するあれです。
舞台は元禄十六年。
大坂では近松門左衛門が実際の心中事件を元に書いた『曽根崎心中』が大ヒット。その舞台となった天神の森は悲恋の末に心中を遂げようとする男女の心中のメッカとなっていた。
その森の入り口にある饅頭屋の夫婦と心中にやってくる男女の物語を三谷幸喜が書き下ろします。
三谷幸喜が描く『曾根崎心中』の裏版『其礼成心中』は笑いと涙に溢れた人情物語となるに違いありません。
PARCO歌舞伎『決闘!高田馬場』で歌舞伎に挑戦した三谷幸喜がいよいよ文楽に挑戦! 「ワインをデキャンティングして美酒にするように僕があらたな器になります」と自ら宣言、三谷幸喜が創りだす三谷文楽『其礼成心中』、どうぞご期待下さい!
パルコ劇場公式サイトより
2月にとりあえず文楽デビューはしたものの、それっきりでしたからね。どんな感じで観ることができるか不安だったんですが。
面白かった!お話自体はきっちり三谷コメディーで、そう来るかっ! そう来たかっ! の応酬。次々とシュールでシニカルでおバカな笑いが炸裂です。
そんでそれを人形がやることで、よりパンチの利いた笑いになるというかね。
たとえば商売敵の息子と恋に落ちる自分の娘「お福」に、「お前のその器量で惚れてくれる男がいるとは思えない」とか言ってのけるんですよ、饅頭屋の主人が。
生身の人間でやったらこれ‥‥ねえ。そういう器量の女優さんであってもなくても角が立つというか「笑っていいの?」って客の方も一拍置いちゃうというか、ねえ。
でも人形だから。「お福」だから。
ひどい~~~~~~!! って身もだえするのも大笑いしてみていられるんだ。そんで、人形遣いさんが見事なの! 身もだえするお福の動きがね、素晴らしいの。古典の文楽とはちょっと動きのテンポと言うかリズムと言うか、そういうのが違うはずなのね。でも、きっちり太夫さんの語りに合わせて、つまり、三谷さんのセリフに合わせて小気味よく動くのよ。いや、動かすのよ。若い人が中心でやっているからかもしれないけれど、もうきっちり三谷コメディーのリズムそのものなんだもの。
そんで、芝居の途中からきっちりお人形さんがしゃべっているように見えてくるから不思議っていうか、凄いっていうかね。
最初は太夫1人、三味線3人? で、曽根崎心中のあれこれを含めた舞台設定を語って、ここが三谷ワールドであるっていうことをお客さんに笑わせながら確認させて。その後は地の文と登場人物全員のセリフとをそれぞれに語り分けるんだ。ちょいとした声色の変化とか、間とかで全く混乱することなく聴きわけられちゃうんだよ。
でも凄いな~って思ってるのも、ほんの最初だけで。芝居に引きこまれていくと人形そのものが声を発しているというか、その者の言葉にしか見えないんだもん。
文楽は基本語りの芸術であるなんてことを三浦さんの文章の中で読んだ記憶があるけれど、太夫の語りの世界の中でそれぞれの人形に命が吹きこまれるんだよ~。
吹き込まれた命を本当の命に見せる人形遣いの方達の技も、技に見せないっていうか、人形がその心のままに動いているように見えるんだ。主遣い、左遣い、足遣いとそれぞれが呼吸を合わせて、音と言葉を感じて人形を生かす。古典の文楽の時と大きく違うのは「様式美」の少なさ、かしらね。女性の人形は足がなくて、着物の裾をつまんで足に見せるんだけれど、そこいら辺が2月に見た国立劇場での文楽の方が色っぽかったの。ちょいと三谷文楽の女性達元気すぎて、足が開き気味でね。ガニ股と言うか(^_^;)
まあ、国立劇場でやる古典の文楽で人形がああいう動きをしたら、それはびっくりするけどね。
古典の文楽と違って、人形遣いの方は全員黒子なの。主遣いの方もね。最後のカーテンコール(!)では全員が黒いかぶり物を外して人形を一台ずつ持って挨拶するんだけれど、それまでは全員が顔を晒さずに人形を扱うのよ。
他に大きく違うのは、パルコ劇場は当然普通の劇場なので「床」がないわけですよ。太夫さんと三味線さんが座るための場所。文楽の舞台だと上手のちょっと高いところにあるのね。それどうするんだろうと思っていたらさ、舞台後方に据えてありました。つまりお人形さんたちの上にいるんです。まっすぐ舞台を見ると上半分に裃着けた太夫さんと三味線さん。下半分にお人形さんと人形遣いさん。舞台の上にちょっと袴をはかせるようにして人形のための「地面」を設定して。
うまいもんだなあと。
2月に一度古典を見ておいてよかったと思いましたよ。違いがわかるからこそ、それぞれの良いところが見えて来たと思えるから。もちろん三谷文楽単体も面白いです。三谷さんのコメディーですから、そりゃ外れはないです。
でも、字幕読まないと言葉がよくわからない文楽を体験した後に、三谷さんの字幕を必要としない文楽を見ることで三谷さんの文楽への愛情と造詣の深さがよりわかるってもんです。「まじめな顔した太夫さんに、そんなセリフ言わせちゃうの~~~??!!!」とかもね(*^^)v
其礼成心中はパルコ劇場で22日まで。
当日券は朝10時から電話受け付けです。
国立劇場での文楽は9月は
<第一部>粂仙人吉野花王(くめのせんにんよしのざくら)吉野山の段、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)住吉鳥居前の段、内本町道具屋の段、釣船三婦内の段、長町裏の段<第二部>傾城阿波の鳴門(けいせいあわのなると)十郎兵衛住家の段、冥途の飛脚(めいどのひきゃく)淡路町の段、封印切の段、道行相合かご です。土日の公演はほとんど席が残っていないという人気ぶりです。
私はオーキャン高知の日あたりに行こうかなあと思っています。
カーテンコールの時のお人形さんたち。
それぞれがちゃんと異なる雰囲気でお辞儀をするの。ほんのちょっと身を屈めるようにして艶然とお辞儀をしてみせる女の人がいれば、深々と頭を下げる商人もいて。
カーテンコールの時は一人で一体扱うから顔と右手しか動かないのに、そのありようがすごいのよ~。顔を出してちょっと恥ずかしそうにしている人形遣いさんたちをしり目に、ね。
最後は太夫さんと三味線さんも手を振ってくれました(^^♪ これは、古典の文楽にはあり得ない楽しいひと時でした♪